2026年10月14日(水)
10月2日からスタートしたB君の自転車技術講習も、今回で4回目を迎えました。
初日は工具の使い方から始まり、2回目には解体作業のスピードが向上。3回目には内装3段変速ハブやハブダイナモの内部構造にまで興味を持ち、自ら探究する姿が見られるようになりました。
そして今回のテーマは、「身体で覚える技術」と「自分で判断する力」です。
自転車の整備技術は、教科書を読んだだけでは身につきません。
実際に工具を握り、部品に触れ、何度も同じ作業を繰り返すことで、少しずつ身体に染み込んでいくものです。
今回もB君の確かな成長を感じられる講習となりました。
■ 13:00〜13:45 ニップルの締め付けを指先で覚える!
まずは前回解体した車両の後輪を、さらに細かく分解してもらいました。
今回の目的は、単にスポークやニップルを外すことではありません。
「ニップルがどのように取り付けられ、どれくらいの力で締められているのかを指先で感じ取ること」
ニップルとは、ホイールの外周部分であるリムとスポークをつなぎ、スポークの張り具合を調整する小さな部品です。
車輪は、たくさんのスポークが適切な張力で引っ張り合うことで、強度と形状を保っています。
この張力のバランスが崩れると、車輪が振れたり、走行時に不安定になったり、スポーク折れにつながることもあります。
将来、ホイールを組み立てるようになったとき、この感覚が重要になってきます。
今回はトルクレンチで数値を測るのではなく、ニップルを緩める際の手応えを指先で感じてもらいました。

もちろん、実際にホイールを組み立てる際には、スポークの張力や振れを適切に測定・調整する必要があります。
しかし、その前段階として、工具を通じて部品の状態を感じ取る経験も大切です。
そしてニップルをすべて外した後は、スポークの取り外しへ。
ハブには内側と外側から交互にスポークが差し込まれています。
どのような向きで取り付けられているのか。
どのスポークがどこを通っているのか。
こうした構造も、実際に手を動かしながら覚えてもらいました。
■ 13:45〜14:30 スポークの太さの違いを身体で感じる
続いて、前輪の解体に取りかかりました。
ここではスポークの太さについて解説しました。

今回の教材では、後輪と前輪で異なる太さのスポークが使用されていました。
- 後輪:#13(約2.3mm)
- 前輪:#14(約2.0mm)
- ロードバイクなどで使われる細いスポークの一例:#15(約1.8mm)
スポークは番手の数字が小さいほど太くなります。
一般的に後輪は、乗員の荷重に加えて駆動力も受けるため、太いスポークが使われることがあります。
今回は実際に#13と#14のスポークを触り比べてもらいました。
しかし、このわずかな太さの違いを指先だけで判断するのは、なかなか難しいものです。
そこで#15のスポークとも比較してもらうと、#13との違いは感じ取れたようでした。
こうした感覚は、一度説明を聞いただけでは身につきません。
何本もスポークを触り、さまざまな車輪を解体していくうちに、自然と違いが分かるようになってきます。
教本で覚える知識と、身体で覚える技術。
その両方がそろって初めて、現場で役立つ技術になっていくのだと思います。
■ 14:40〜15:30 今回は自分で工具を選ぶところから!
休憩後は、27インチのシティサイクルの解体です。

ここで今回は、これまでとは少し違った課題を設けました。
「解体に必要な工具を、自分で工具箱から選んでもらう」
これまでは作業を進めながら工具の使い方を教えてきましたが、今回は最初に必要な工具を自分で考えて準備してもらいました。
これには大切な狙いがあります。
どんな仕事でも、作業を始める前の準備が作業効率を大きく左右します。
必要な工具が手元になければ、そのたびに取りに戻らなければなりません。
反対に、作業の内容を理解し、必要な工具を事前にそろえておけば、無駄な動きを減らすことができます。
そして、もう一つ。
工具を選ぶということは、これから行う作業を頭の中でイメージすることでもあります。
どの部品を外すのか。
その工具を使う際には、何に注意すべきなのか。
どんな工具が必要なのか。
これまでの講習で学んだことを、自分自身で振り返る機会にもなります。
こうした経験を繰り返すことで、いずれは工具を手に取った瞬間に、作業手順や注意点まで自然と思い浮かぶようになってほしいと考えています。
作業を教わる段階から、自分で作業を組み立てる段階へ。

わずか4回目の講習ですが、着実に成長している手応えを感じました。
■ 15:45〜17:00 初めての全ケース車に挑戦!
最後の実技は、27インチのシティサイクル「ML273SHXR」の解体です。
今回の車両は、B君にとって初めての全ケース仕様。

全ケースとは、チェーンを覆うカバーが広い範囲に取り付けられている構造のことです。
一般的な半ケースの自転車に比べて、取り外す部品が多く、解体にも手間がかかります。

しかし、こうした車両にも慣れていかなければ、将来さまざまな自転車を扱うことはできません。

まずはチェーンジョイントの取り外しから。
チェーンジョイントとは、チェーンの両端をつないでいる部品です。
今回はジョイントの構造と取り外し方を説明し、ピンの脱着を繰り返し練習してもらいました。

一度できたから終わりではありません。
繰り返すことで、手順を覚え、確実に作業できるようになることが大切です。

さらに、全ケースを固定しているリングの取り外しにも挑戦しました。
通常使用するSレンチが入らない構造だったため、今回はポンチを使った取り外し方法をレクチャー。
工具が入らないからといって、そこで作業を諦めるわけにはいきません。
部品の構造を確認し、傷めないよう注意しながら、適切な方法を考える必要があります。
こうした経験が、将来さまざまな車種や複雑な修理に対応するための引き出しを増やしていきます。
■ わずか4回で、ここまで成長するとは!
今回の講習を振り返ると、B君の成長をさまざまな場面で感じることができました。
初日は、工具の名前や使い方を覚えるところから始まりました。
それが今では、必要な工具を自分で選び、作業の順番を考え、新しい構造にも挑戦できるようになってきています。
スポークの太さを指先で感じる。
ニップルを緩めるときの手応えを覚える。
チェーンジョイントの脱着を繰り返す。
全ケースという新しい構造に触れる。
一つひとつは小さな経験かもしれません。
しかし、その積み重ねが技術者としての大きな力になっていきます。
私が特に嬉しかったのは、B君がこれまでの経験を活かしながら、自分で考えて作業に取り組んでくれていることです。

教えられたことをそのまま繰り返すだけではなく、少しずつ自分の判断で動けるようになってきました。
この短期間で、素晴らしい手応えを感じています。
■ 技術継承とは、知識だけでなく「感覚」を伝えること
私たち一般社団法人 自転車技術者協会が目指している技術継承。
それは、工具の名前や修理方法を教えるだけではありません。
長年の現場経験で培ってきた、言葉だけでは伝えきれない感覚や判断力も、次の世代へつないでいくことだと考えています。
ネジを緩めるときの手応え。
部品のわずかな違い。
工具を当てる角度。
作業を進める順番。
こうした技術は、何度も実物に触れ、経験を重ねることで身についていきます。
そして、身につけた技術が自転車の修理や再生、リビルト部品の製作などに活かされれば、捨てられるはずだった自転車や部品に新しい価値を生み出すことができます。
B君が初日に語ってくれた、中古自転車の国内販売やパーツセンター構想。
その夢を実現するためには、まだまだ覚えることがたくさんあります。
しかし、今回の講習を見ていて、確実にその未来へ近づいていると感じました。
人が育てば、技術が残る。 技術が残れば、資源が活きる。 資源が活きれば、新しい仕事が生まれる。
これからも、知識だけでなく、現場で使える本物の技術を一つひとつ伝えていきたいと思います。
B君、第4回の技術講習もお疲れさまでした!
次回はどんな成長を見せてくれるのか、今から楽しみです。
一般社団法人 自転車技術者協会
代表理事 中根和宏
人・技術・資源・想いを循環させ、笑顔と挑戦を未来へつなぐ。
