お客様と創り上げる車両

一目惚れから始まった、世界に一台のルイガノカーゴ

―「クーラーボックスを自転車で運びたい」から始まったMさんとの一台づくり―

今回は、一台の中古自転車と一人のお客様との出会いから始まった、少し特別なお話です。

最初はかなり傷んだ状態で買い取った一台の「LOUIS GARNEAU MV CARGO」。

残念ながら買取当時の写真を撮り忘れてしまったのですが、そこから手を入れ、再び街を走れる状態まで仕上げました。

まずは、一台のルイガノカーゴを再生

鮮やかなオレンジのフレーム。

大きなフロントバスケットと、カーゴバイクならではの特徴的なリアキャリア。

かなり傷んだ状態からでしたが、

「まだまだ、この自転車は活躍できる。」

そう思いながら仕上げた一台でした。

この時はまだ、この自転車がこれからどんな一台に変わっていくのか、私自身も想像していませんでした。


息子さんの自転車修理で、偶然の出会い

そんなある日、息子さんの自転車修理でMさんが来店されました。

お話をしていると、Mさんにはちょっとしたお困りごとがありました。

息子さんのサッカーへ行く際、クーラーボックスを持って行く必要がある。

ところが、

「クーラーボックスを運ぶためだけに車を出すのが面倒なんです。」

とのこと。

Mさんは小柄な方なので、大きな自転車ではなく、身体に合ったコンパクトな車体がいい。

でも、クーラーボックスはしっかり積みたい。

そんなMさんが店内で出会ったのが、仕上げたばかりのルイガノカーゴでした。

一目惚れでした。

偶然そこにあった一台が、Mさんが思い描いていた使い方にピッタリだったのです。


ところが、クーラーボックスが載らない

後日、実際に使用されているクーラーボックスを持ってきていただきました。

車体に合わせてみると、一つ問題が発覚。

クーラーボックスの幅が、荷台よりかなり広い。

そのままでは安定して固定できません。

大きな補助キャリアを取り付ければ解決できます。

でも、それではサッカーのない日まで大きなキャリアを付けっぱなしにしなければならない。

せっかく小柄なMさんに合うコンパクトな車体なのに、それでは面白くありません。

「必要な時だけクーラーボックスを積めるようにできないかな?」

そこで思い出したのが、先日、倉庫の棚を作った時に余っていた木材でした。

「これ、使えるんじゃないか?」

ここから、ちょっとした工作が始まりました。


手描きの図面から、専用BOXをつくる

まずはクーラーボックスを採寸。

頭の中にあるイメージを、とにかく紙に描いてみます。

寸法を書いて、線を引いて、考えて、また描く。

決して立派な設計図ではありません(笑)。

でも、この紙の上にあるのは、

「Mさんなら、どうすれば使いやすいだろう?」

と考えた跡そのものです。

既製品から選ぶのではなく、このクーラーボックスと、このルイガノカーゴのために作る。

寸法が決まったら、余っていた木材を切り出して組み上げていきました。


普段はBOX、サッカーの日には大型キャリアへ

完成した木製BOXには焼きを入れて仕上げました。

オレンジ色の車体に取り付けてみると、焼きの入った木材が意外なほどよく似合います。

普段はコンパクトなBOX。

ところが——

開けば左右に大きく展開し、クーラーボックスを積載できる荷台に変身します。

そして実際にMさんのクーラーボックスを載せてみると……

ピッタリ!

これならサッカーの日にはクーラーボックスを積んで自転車で出発。

普段は大きなキャリアを付けっぱなしにする必要もありません。

「クーラーボックスを運ぶためだけに車を出すのが面倒」という最初のお困りごとに、一つの答えを出すことができました。

ちなみに一つ、計算外もありました。

蝶番の厚みを計算に入れていなかった(笑)。

そのため畳んだ時の姿が、想像よりちょっと不恰好に。

そこは手作りならではのご愛嬌ということで……。

作ってみて初めて分かることもあります。

それも含めて、ものづくりの面白さです。


ここからMさんの「カスタム魂」に火がついた

専用BOXが形になってきた頃から、今度はMさんのカスタム魂に火がつき始めました。

「サドルも変えたい!」

と、ご自身でヤフオクを探し、ルイガノのロゴ入りサドルを発見。

さらに車体に入っている白い「LOUIS GARNEAU」のロゴに合わせ、

「タイヤも白にしたい!」

ということに。

ただし、タイヤは好きなものを何でも付けられるわけではありません。

この車体はスタンドとのクリアランスの関係で、20×1.75以下のサイズである必要があります。

そのことをお伝えすると、Mさんは商品を見つけるたびに、

「これ、付きますか?」

と購入前にメール。

こちらで適合を確認してから、ご自身で購入していただきました。

グリップも専用BOXに合わせて焦茶色を探すことに。

こうしてMさん自身が「これが好き!」と思えるパーツを探し、私が技術面から適合を確認する。

気がつけば、

「お店が作ってお客様に販売する一台」から、「お客様と一緒につくる一台」

へと変わっていました。


なかなか見つからないペダル。その答えは店の棚に

最後まで悩んだパーツの一つがペダルでした。

「ありきたりなペダルじゃ面白くない。」

茶色か白を探されたそうですが、なかなかMさんのお眼鏡に適うものがありません。

そんな時、ふと思い出しました。

実家を片付けた際に持ち帰り、店の棚にしまってあった古いペダルです。

昭和の古き佳き時代の、三ヶ島製作所製の白いペダル。

「これ、好きなんじゃないかな?」

と思い、写真をMさんへメールしてみると……

「可愛いーーー!!!」

大絶叫(笑)。

「可愛い!」の連呼でした。

探し回っていた答えが、まさか店の棚に眠っていました。

しかも昔のペダルだからと侮れません。

現代の車体にも取り付けられる規格で、ベアリングの仕上がりにも、昔の日本製品らしい丁寧さを感じます。

流石、Made in Japan‼️

長い間使われずに眠っていた古いペダルが、何十年もの時間を越えて再び自転車の一部として走り出す。

今回の一台に、とてもよく似合うエピソードになりました。


一月近く店内にいた「気になる自転車」

そして最後まで探していた焦茶色のグリップも、

「見つかりました!」

とMさんから連絡があり、お持ち込みいただきました。

これですべてのパーツが揃い、いよいよ納車です。

振り返れば、このルイガノカーゴは一月近く店内にいました。

変わったデザインのカーゴバイク。

しかも鮮やかなオレンジ色。

とにかく目立ちます(笑)。

来店されたお客様がじーっと眺めていかれたり、通りがかりの方が足を止めたり、

「これ、いくらですか?」

と何度聞かれたことか。

そのたびに、

「すみません、これはもうお客様の車両なんです」

という状態。

ですから最後のグリップを取り付けて、ようやく納車できるところまで来た時には、こちらもちょっと安心しました。


そして完成。世界に一台のルイガノカーゴ

完成した一台を見てみると、最初に仕上げた時とはずいぶん印象が変わりました。

鮮やかなオレンジのフレーム。

車体の白いロゴとつながる白系のタイヤとペダル。

茶系のサドルと焦茶のグリップ。

そして焼きを入れた木製の専用BOX。

Mさんが一つずつ選んだ「好き」と、私が考えた「使いやすさ」が一台の自転車の中でまとまりました。

そして、もちろん一番大切な目的も忘れていません。

クーラーボックスは専用BOXにしっかり収まります。

見た目を変えるためだけのカスタムではなく、

Mさんの暮らしの中で、本当に使える自転車。

ようやく完成です。


声を震わせて喜んでくださった納車の日

そして納車の日。

完成したルイガノカーゴを見たMさんは、本当に喜んでくださいました。

途中経過をお伝えするたびにも喜んでいただいていましたが、完成した一台を目の前にした時には、声を震わせながら喜んでくださったことが、とても印象に残っています。

最初は、

「サッカーへクーラーボックスを持って行くためだけに車を出すのが面倒」

という、日常のちょっとした困りごとでした。

そこから偶然ルイガノカーゴと出会い、

「こんなふうに使いたい」

「こんな見た目にしたい」

というMさんの想いが一つずつ加わっていった。

こちらがすべてを決めて作ったのではありません。

Mさんと一緒につくったからこそ、ここまで喜んでいただける一台になったのだと思います。


納車してからが、本当のお付き合いの始まり

最後に、専用BOXの使い方や積載時の注意点をはじめ、この自転車と安全に長く付き合っていただくためのお話もしっかりとさせていただきました。

そしてMさんを送り出しながら、ふと頭をよぎった言葉があります。

昔、師匠から教えていただいた言葉です。

「お客様に買っていただいてからが、お付き合いの始まりだから、長い目でお客様と接しなさい。」

売れたら終わりではない。

納車したその日から、その自転車とお客様の暮らしが始まります。

調子が悪くなった時。

使い方が変わった時。

また何かカスタムしたくなった時。

そんな時に、また頼っていただける自転車屋でありたい。

今回、Mさんにこれほど喜んでいただけたからこそ、師匠の言葉がいつも以上に重く感じられ、改めて身が引き締まる思いがしました。


最初は、かなり傷んだ状態で買い取った一台の中古自転車でした。

その自転車を再生し、Mさんと出会い、倉庫の棚を作った時に余った木材が専用BOXになり、実家から持ち帰って眠っていた昭和のペダルにも、もう一度役割が生まれました。

捨てずに活かす。直して、工夫して、次の人へつなぐ。

そしてそこに、使う人の「こうしたい」という想いが加われば、一台の中古自転車は、もう単なる中古車ではありません。

「これが私の自転車!」と思っていただける、世界に一台の相棒になる。

今回の仕事を通じて、そんな自転車屋の面白さを、私自身も改めて感じることができました。

Mさん、この度は本当にありがとうございました。

息子さんのサッカーの日にはクーラーボックスを積んで。

何でもない日には、Mさんのお気に入りの一台として。

これからたくさん走って、たくさんの思い出をつくってください。

そして何かあった時には、いつでもお持ちください。

納車はゴールではありません。
ここからが、このルイガノカーゴとMさん、そして私たちとの新しいお付き合いの始まりです。

ここまで読んでいただき大変ありがとうございました

一般社団法人 自転車技術者協会

代表理事 中根和宏